「??おお、誰かと思えば凛、凛ではないか」

一堂の驚愕やら絶望やらを尻目に凛の姿を見つけるや心底懐かしそうに歩み寄る。

「久しぶりだな凛、よもやお前も神霊としてこの地に招かれたとは。これも神の思し召しと言う所か師父もさぞかしお喜びであられるだろう」

そんな綺礼を余所に俯きぶるぶる身体を震わせる凛。

「??どうかしたのか凛」

「・・・んでよ・・・」

「??」

「なんで・・・あんたがここにいるのよ!!綺礼!!」

そう言うや寸分の狂いのない突きを綺礼に打ち放つがそれをいともたやすく受け流し、条件反射だろう凛のみぞおち目掛けて掌底を撃ち込もうとするが、それを

「!!」

いつの間にか割って入った士郎の拳が迎撃に入る。

「これはこれは申し訳ありません。もう少しで師父の大切なご息女に手を上げてしまう所でした」

そう言って士郎に丁重に一礼する。

それを見てようやく全員何かが違う、そう確信を抱くに至った。

今自分達の目の前にいる綺礼は彼らが知る綺礼とは明らかに様子が違う。

凛達の知る綺礼であるならば、手を出す以前に穏やかな表情で辛辣な皮肉を平気で口に出来る。

何よりも今しがた綺礼は士郎に対して初対面であるかのようにふるまった。

「・・・あ、いえ、凛が手が早いのはいつもの事ですし」

勝手の違う綺礼に戸惑いながらも一礼する士郎。

「確かに、その様子では君も苦労したようですね」

朗らかに笑い士郎の言葉に同意する。

「所で君は?凛の従者ですか?」

「いや、その、凛の方が従者で」

「??それは一体・・・」

訝しげな綺礼に士郎がようやく説明に入る。

「なんと、では君が新しくなった剣神」

「はい」

「では、凛は君を追って従者に?」

「そうよ」

何か文句あると言いたげに態度で綺礼を睨み付ける。

「なるほど・・・お前にも春が来たと言う事か、従者となり神霊となる僅かな可能性に賭けてでも会いたい人物が現れたか」

そんな凛を微笑ましく温かい視線で祝福を述べる綺礼。

「ぐっ・・・なんかこれはこれでむかつくんだけど」

もしも綺礼が士郎達が知る調子で上辺だけの祝福交じりの皮肉を述べてきたら、それはそれで腹が立っただろうが、今ここにいる綺礼の純粋な祝福にもどうにもならない反発が出てくる。

「それにしても・・・やっぱり調子が狂いますね。私達の知る言峰神父とは全くの別人みたいですし」

「みたいじゃないわよサクラ、完全に別物、ここの空気に本当に心の底まで浄化でもされたのかしら」

桜とイリヤの会話が耳に入ったのだろう。

「??失礼だが、先程から別人とか別物とかどう言う事なのかね?」

訝しげな表情で綺礼が尋ねる。

「どう言う事もそう言う事もそのままの意味よ」

そう言って凛が口を開く。









「・・・なるほど、ではお前達は私から見れば別の並行世界の・・・まさか・・・いや、ありうるか・・・ここに集う神霊は無限の並行世界からの出自、ならばこのような事が起こっても不思議ではないと言う事か」

凛から説明を聞き最初呆然としていた綺礼だったが、ここがどのような場所なのかを直ぐに思い出したのだろう、思考の海に埋没し直ぐに納得した様子だった。

「ではお前達の世界での私は・・・あまり褒められた人物ではないと言う事なのか?」

「そこまでは言わないわよ。まあ確かになんでこいつが神父やっているのか不思議に思う事はあったけど、神父としては文句の付けようのないのは確かだし、」

「まあ、本性を知る者にとっては上辺がどうであれ、くず神父である事に変わりはありませんが」

今まで黙っていたカレンが辛辣な評価を結論として下す。

「・・・??」

カレンの顔を見た綺礼が静かに視線を固める。

カレンの顔に、そしてその銀の髪に。

「何か?」

「いや、失礼なんでもない、初対面だと言うのに随分な言い草だと思ってね」

だが、それもカレンの問い掛けであっさりと終わりを告げた。

「それにしても綺礼、あんたなんでこうも性格変わった訳?」

そこに問われた凛の言葉に綺礼は思わず腕を組む。

「なんでと言われてもな・・・概ねは同じだと思うが、生まれてから父と共に各地を巡礼し、その後自分の在り様を求め様々な事に挑み・・・結局は諦めた」

「諦めた?」

「ああ、挑んでも挑んでも在り様は掴めず、いつしか在り様を求めなくても良いのではないかと思う様になってな。気が付けば何も願わず何も求めず、ある意味根なし草の様に世界を回り人々を導き続け生涯を閉じ、まあ気が付けばここに招かれ道の神霊となっていた」

その悔恨とも独白とも取れる言葉に士郎達は顔を見合わせる。

「はあ、諦める?あんたが?ありえないでしょ!少なくとも私達の知る綺礼はそんな柔な神経の持ち主じゃなかったわよ」

その言葉に納得がいかない様だった凛が真っ向から反発する。

「・・・なあ言峰、あんた第四次聖杯戦争には参戦したのか?」

「ああした」

そんな中、士郎の口から発せられた質問に綺礼も当然の様に答える。

「それであんたは最後まで爺さん・・・衛宮切嗣と直接相対したのか?」

「いや、残念だが相対してはいない。今から思えばそれは生前の私が犯した二つの過ちの一つなのだろう、あの時何があろうとも冬木に残り衛宮切嗣と直接会うべきだった。そうすればまた違う生涯を送ったのだろうが」

「・・・多分それだ。俺達の知る言峰綺礼は第四次聖杯戦争に最後まで関わっていた。その時爺さんと相対してあいつはあの性格になった。あれが今目の前にいる言峰綺礼にとっての分岐点だったと言う事か」

士郎の言葉を最後にしばし教会に沈黙が降りる。

皆一様にそのような可能性もあったのかと思いながら。

だが、それに終止符を打ったのは教会に入ってから、話について行く事が出来ずに蚊帳の外だった志貴の一言だった。

「あ〜士郎、話が盛り上がっている所すまないが、そろそろ本題に入らないか?」

『あ』

二日連続で魔の抜けた声が辺りを支配した。









「なるほど・・・」

綺礼が現れると言う予想の斜め上のアクシデントに忘れかけていたが志貴の指摘でようやくここを訪れた本題・・・士郎達の結婚式について話をする事が出来た。

「正直言えば純粋に祝福すべきか迷う所だが・・・」

そう言葉を区切り、士郎に鋭い視線を向ける綺礼。

先程とはまるで違うそれを周囲は思わず息を呑み、アルトリアなどはいつでも動けるよう臨戦態勢を取るが、向けられている士郎は驚く事も無く当然の様に受け止める。

これ位で慌てふためいていては『剣の代理人』になど、なれる筈がない。

「・・・だが、他ならぬ剣の神霊の妻となるのであれば凛の眼に狂いはないのだろう」

士郎の態度に感銘を受けたのだろう、視線を和らげる。

「純粋に祝福すべきかって言っていたけど言峰、それは神霊と従者の結婚にか?それともやはり一夫多妻状態での結婚にか?」

「後者に決まっていよう。そもそも神霊と従者の婚姻自体は棹ほど珍しい事ではない」

「へ?そうなの?」

「そう言えば道の神霊の巫女も私達の結婚に驚く事はありませんでしたね」

「言われてみれば・・・」

「現に衛宮士郎、お前の先達である剣の神霊、彼らは皆この神界で従者として彼らを追いかけてきた女性と婚姻を結んでいる」

「え!でも・・・剣の神霊は」

「生前は孤独である。それは紛れもない真実だ。だが、人である以上どのような並行世界であれ例外は極少数であろうとも存在する。神霊となった代理人を追い従者となった者も一人位はいる。まあお前の様にこれほどの数が押し寄せるのは異例だがな」

綺礼に言われなるほどと思う。

「それはさておき、式についてはこちらで責任をもって執り行わせてもらおう。当人達が納得している以上、外部が文句言うのは筋違いだからな」

そう言って立ち上がる。

「式の手順や日取りに関してはまた追って話し合おう。お互い準備も出来ていないだろうからな」

「そうだな、じゃあまた明日改めて」

その言葉で今日の所は終わりを迎えた。









「だけど驚いたわね。まさか綺礼の奴が神霊として呼ばれるなんて・・・たとえ並行世界の別の綺礼だとしても」

その帰り道、凛が疲れたような溜息を零しながら誰にともなくそう零す。

「そんなに警戒する方なのですか?トオサカ。私の見た所厳格ですが、信頼に値する方に見えましたが」

「それはあんたがあいつの本質判っていないから言えるのよ。それが判っていたらとてもじゃないけどそんな台詞吐けないわよ」

綺礼との付き合いなどこのメンバーの中では皆無に等しいルヴィアの疑問に凛がそう返す。

「ですが姉さん、幸いと言えば幸いじゃないですか?少なくともここにいる言峰神父はまともなのは間違いないのですから」

桜の指摘に疲れ切ったため息で返す。

「それしか良いニュースが無いってのが性質が悪いわよ。あんたもそう思わない?カレン?」

しかし、その声に応ずる声は無かった。

「??あれ?カレンは?」

一行の中に他ならぬカレンの姿は無かったのだから。









ほぼ同時刻士郎達も退出し綺礼以外誰もいないと思われた教会にまだ他の人影がいた。

「どうかされたかね?」

それに裏表のない誠実な表情で目の前に立つ人影・・・カレンに尋ねる。

「・・・一つ尋ねたい事があります。言峰綺礼、先程あなたは生涯で二つ過ちを犯したと言っていましたが、もう一つの過ちとはなんなのでしょうか?」

「これは面白い事を聞かれる御嬢さんだ。何故そのような事を?」

「別に他意はありません。同じ神に仕える縁故に懺悔を聞こうと思っただけです」

「なるほど・・・懺悔になるかどうかは判らぬが話すのも一興か・・・これは極めて個人的な事だ、生前私には妻がいた」

「・・・」

それにカレンは言葉を口にする事無く常以上にただ真剣に、ただひたすらに真摯に綺礼の言葉に耳を傾ける。

いつもならば皮肉や嫌味の一つは口にする筈だと言うのに・・・

「まあ結婚して僅か二年足らずの夫婦だったがな」

「二年・・・それは短いですね。神に仕える身であろうものが伴侶と別れたのですか?」

「別れたと言えばその通りか・・・妻が死病もちでね。子を授かる事は出来たがその一年後帰らぬ人となった。妻は聖女だったよ。少なくとも私にとっては」

「なぜです?」

「私は自分の在り様が判らなかった。だがそれ以上に私には生を受けてから死ぬその時・・・いや、違うな今でも何か・・・自分の中にある満たされぬ何かを求め続けた。その為の求道だった。どのような荒行にも耐えた。いかなる苦難をも喜んで挑んだ。しかし私はそれを見出す事が出来なかった。その果てに私が縋ったのは陳腐なものだった。いかなる者であれ人並みの幸福・・・愛すべき者と結ばれ子を儲け平凡だが、いかなる財貨に変える事の出来ぬ幸福を得る。それに私は縋った」

「ではあなたにとって妻となった女性はご自分の目的のための道具だったのでしょうか?」

これまで無感情だったカレンの口から糾弾以上に憎悪や殺意までもが滲み出る。

「道具か・・・確かに口でいかに言いつくろうがそのような側面があったのは間違いない。だが、あれは純粋に私を愛してくれた。私も愛した、いや、正確には愛そうとした」

「でも愛せなかったのですね?」

「若さゆえの過ちと言う奴なのだろう。あの当時は自分の中の空虚を埋めようとするのに精一杯で真摯に妻を愛する努力はおざなりになっていた。半ば義務の様に愛そうとした。そんな男が本当に人を愛することなど出来る筈がないのにな・・・にも拘らずあれは息絶える直前まで私を愛していた」

そう言う綺礼の脳裏によぎるのは大半の記憶が摩耗し風化していく中で数少ない鮮明に覚えている光景。

自分は妻を愛せなかった、そう懺悔する綺礼の言葉を微笑みながら否定する妻。

いいえ貴方は私を愛しています、ほら貴方泣いているもの。

そう言って彼女は綺礼の目の前で命を絶った。

例えもはや余命幾許も無いとしても自殺は主の教えに背く大罪だ。

だが、彼は妻の行為を今でも非難する気はない。

妻は己の命をもって綺礼は人を愛するにふさわしい人だと、証明しようとしたのだ。

結果としては無意味な行為だったかも知れない、しかし人がその命を賭して訴えかけたものをどうして嘲笑い、蔑む事が出来るだろうか、そちらの方がよほど主の教えに背く大罪だと言うのに。

「・・・少し話が横道に逸れたな。私のもう一つの過ち、それは生まれてきた子の事だ。妻が亡くなった後私は結局、子を施設に預け、それ以降一度も会う事は無かった。あの当時の自分には子を育てる事は出来ぬと判断しての事だったが、今にして思えば自分勝手な判断だったよ、何故一度でも会おうとしなかったのか、いや、共に生きる事も出来たのではないのかと思うようになってね。これが私のもう一つの過ちだ」

「そうですか・・・一つお伺いしますが貴方のご子息の名はなんと?」

「・・・祖国の言葉である可憐からカレンと名付けた」

「では娘なのですね。直ぐに出てくることは今でも覚えているのですか?」

「生前はあまり思い出す事は無かった。頻繁に思い出すようになったのは神霊となってからだがね。未練なのかそれとも別の感傷なのかはわからぬが。ただ一つ分かっている事はこの記憶と償えぬ罪を永遠に背負い続ける事だろう」

「・・・そうですか」

そう呟くカレンの言葉から憎悪も殺意も消え失せていた。

「すまないな。本来は導く役割である神父の懺悔につき合わせるとは」

「お気になさらず、私が自主的に聞いただけですので」

「そうか・・・そう言えば御嬢さん貴女の名前を聞いていなかったな。差し支えなければ教えて貰いたいのだが」

「・・・」

それに数瞬の沈黙を挟んで

「カレン・・・カレン・オルテンシアと申します。最も近い将来カレン・オルテンシア・エミヤとなるでしょうが」

その言葉に綺礼は明らかに息を呑む。

「それではこれで失礼します」

そんな綺礼を余所に身を翻して教会を後にしようとするカレンの背に、

「一ついいかね?」

「何か?」

「・・・お前の人生は・・・幸福だったか」

何処か絞り出すような問い掛けに

「そうですね、幸福だったかどうかは判りません、ですが意義のある生涯だった、それだけは間違いありません。そして産んでくれた母の顔は覚えていませんが残してくれたこの名、私はとても好きです」

即答で返事が返ってきた。

「そうか・・・」

その答えにどこか安堵したように言葉が漏れた。

「呼び止めてすまなかった」

「お気になさらず・・・ではこれで」

そう言って今度こそカレンは教会を後にした。

余談だが遅れて帰宅したカレンの機嫌は何処か良く、この日以降綺礼の表情にはある種の余裕に似たものが滲み出るようになった。









そしてそれから半月後、教会には白のタキシードを着た士郎、そしてなぜか同じ衣装に身をまとった志貴がいた。

「・・・なあ士郎、なんで俺もこれ着ているんだろうな」

「それについてはアルクェイドさん達に文句を言ったらどうだ?」

「・・・何も考えないようにしよう」

「そうしておけ」

士郎はまだしも生前に既に式を挙げて既婚者となった志貴までが正装している理由、それは

「志貴―っ!」

満面の笑みを浮かべて志貴に手を振るアルクェイド、その後ろには琥珀達も揃っている。

その姿はあの時と同じ純白のウェディングドレス。

そう、ここで志貴達も改めて式を執り行う事になったのだ。

と言うのも士郎達の式の段取りを決めて行く内にアルクェイドを筆頭に『九夫人』全員が『志貴とまた結婚式やりたい』と駄々をこね始めたからだった。

それを窘めようとした志貴だったのだが、数の暴力と言うのかなんだかんだ言って妻に甘いと言うのか押しも弱く、士郎達も特に反対する事も無かった事も手伝い、なし崩しに合同の結婚式を執り行う事が決定してしまった。

見れば生前式を行った皆の衣装は何処で手に入れて来たのかあの日と同じデザインのドレス、レンは特注品だろう、彼女のサイズにぴったり合った黒の、朱鷺恵は純白のオーソドックスなドレスを着こんで志貴を待ちかねていた。

「そろそろ始めるってまずは士郎達から行って次は私達」

「そうか、しかし前代未聞だろうな式の参列者と参加者が入れ替わって式を行うって」

「面白そうだからいいじゃない、ね、士郎君」

「いや、仮にも厳粛な結婚式で 面白そうと言うのも・・・」

「それよりも衛宮様、アルトリア様も皆お待ちですよ。早く早く」

そう言って琥珀が士郎の背を押す。

「はいはい、判りました。じゃあ志貴後で」

「ああ」

そう言って士郎は志貴達と別れた。

教会に入った志貴達は直ぐに各々席に着き花嫁と花婿の登場を心待ちにしてる。

もっとも席に着いている一団もタキシードにウェディングドレスと言うのはどうにもシュールと言うのか。

「・・・では新郎の入場を」

そんな光景を見てもさして変わらず綺礼の言葉と共にまずは士郎がヴァージンロードを一人で歩く。

本来ならば新郎新婦揃って入場なのだが数が数なので、まずは士郎が入場した後神父であるアルトリア達を迎える形をとった。

「続いて新婦、入場」

その言葉と同時にアルトリアを先頭に総勢十名の新婦が入場、士郎と同じくヴァージンロードを歩きながら士郎の元に近寄る。

大半はようやく叶った願いに喜色を滲みだし、少数は不服、無感情を控えめにだけれども前面に出して。

そして全員が綺礼の前に立つ。

後は誓いの言葉と指輪の交換と誓いの口づけ・・・となるのだがこれだけの数なので一人ずつとは当然いかない。

なので宣誓は全員一斉に行い、指輪も新婦の手に新郎が一人ずつはめてその流れで口づけを行う。

そしてここにいるのは志貴達しかいないが形式は大事だと言わんばかりブーケもとりあえず投げる。

それをアルクェイド達が当然の様に受け取りその後は志貴達の二度目の結婚式が執り行われた。









夜、『七星館』では披露宴代わりの宴会が催されていた。

ちなみに食事自体は先日の宴と同じメンバーが早朝から下拵えを済ませ、式が終わった後急ピッチで準備を済ませている。

新たに妻となった人達が賑やかに華やかに明るくする中志貴と士郎は少し離れた所で酒を飲み交わしていた。

「まずは結婚おめでとう」

「ああ、お前も二回目の結婚おめでとう」

「やめてくれ、そう言われるとなんか離婚してよりを戻したみたいに聞こえる」

しかめっ面の返答にそれもそうかと笑う。

「だけど皆大変なのはこれからだろうな」

「ああ、従者から神霊に昇格するには並大抵の苦労じゃない。ある意味人間が代理人になるよりも大変じゃないかな」

志貴の言葉に士郎は頷く。

「あれから先達の剣の神霊に聞いてみたけど、あの人達の伴侶となった従者は皆消滅したって話だし」

「・・・俺達に出来る事は皆を信じる事だけか」

「ああ、こればっかりは俺達にはどうする事も出来ないしな」

そう言うが二人にはどうしても誰かが消滅し自分に取り込まれる、そんな未来図は予想できなかった。

全員無事に神霊に昇格し変わる事の無い毎日を過ごす、そんな未来図の方がよほどたやすく想像出来た。

そしてその想像は現実のものとなる事も彼らは知らなかった。

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